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yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

青年劇 秋桜・・・公民館公演

  一幕



  母 と 娘 (「秋 桜」より)

             
吉馴  悠



     登場人物      母

                娘

                義弟



     時    現代の秋の暮れ

     場所   観客の皆さんの住んでいる所



     舞台は下手に縁側に面した母の部屋。上手に小さな庭がある。庭には雑木の中に桐の木が    

見える。部屋には卓袱台とか鏡、古い整理ダンス、テレビが見える。衣桁に花嫁の打掛け     

が飾られてある。

     幕が開くと、母が縁側に座ってアルバムを見ている。時折庭にある桐の木を眺めては涙している。

     娘が登場して、母の後に静に近寄り、



娘  こら、娘の門出に涙なんか流して・・・

母  誰が・・・誰が、涙なんか流してやるものか。

娘  (母の顔を覗き込み)それが鼻水だとでも言うの   。

母  そうよ・・・

娘  へえー、鼻水が目から出るとは知らなかったわァ

母  お前は何も知らないね、目から火が出るという言葉があるくらいだから、鼻水が出ても可笑しくな   

いだろうに。

娘  それは屁の付く理屈ョ。

母  私は減らず口を叩くうるさい娘がいなくなるので清々しているんだから。

娘  うるさくて悪う御座いました。

母  そうよ、とっとと出てお行き。

娘  はいはい、言われなくったって出て行くわ、私は明日嫁ぐのですもの。

母  ・・・もう、準備は出来ているんだろうね・・・

娘 ご心配なく。

母  式場であれを忘れたこれをと騒ぐのじゃないよ。お前は忘れっぽいのだから・・・

娘  いっまでも子供扱いするな。それは子供の頃のことでしょう。

母  (ぽっりと)子供だョ。

娘  じゃぁもっと優しくしろ。もっと別れの涙を流せ。

母  誰が・・・。お前のために流す涙はもうないョ。

娘 言ったな。(母の肩を叩く)

母  別れの涙は流さないけれど、門出の嬉し涙は流してやるョ。

娘  かあさん!(涙を隠すために庭の方へ)

母  なんだい、泣き虫だね。

娘  かあさんゆずりだわョ。

母  (アルバムを捲りながら)この頃のお前は泣き虫でね。母さんの側を離れなかったヨ。

娘  かあさんは阿智神社の秋祭りの時、夜店で綿菓子を買ってくれた、憶えてる?

母  そんな事ばっかり憶えているんだから。まったく食物には意地汚い娘だったからね、お前は・・・

娘  かあさんの娘ョ。

母  かあさんは・・・

娘  いいえ。私が買って貰った綿菓子をつまんで食べたのは何処の誰かしらね。

母  ふん。そんな事ばっかり憶えているんだから・・・。ほれ、この写真、お菓子を口元に一杯つけて   。

娘  かあさんだって・・・

母  母娘だね。

娘  この写真頂いてもいいかな。

母  持ってゆくのかい。

娘  私の写真だもの。

母  そうね、お前のだョ。捨てようが焼こうがどうなとおし。

娘  止めとくは。

母  何だかんだと言っても・・・、お前の悪い癖だよ、はっきりしないのは。

娘  そうね、だけど、忘れることにしたの。

母  私のことかい。

娘  写真の、こと・・・

母  そうかい、じゃァ。お前が出て行ったら燃やしちゃおう。

娘  お好きなように。



     娘は庭に向かって座り込んだ。間



母  本当に何もかもチャンと出来ているんだろうね。

娘 娘が信用できないの。

母  出来ないね。

娘  かあさんの娘だから。

母  そうだョ、お前はオッチョコチョイで・・・

娘  そんな娘に誰がしたのョー

母  天性生まれついてだわョ、お前のは。

娘  いいえ、遺伝ですョーだァー

母  それなら、とおさんに似たんだョ。

娘  とうさん!

母  そうさ、とおさんはオッチョコチョイだったから   。

娘  だから、かあさんと結婚した。

母  この娘ったら、ああ言えばこう言う、口から先に生まれてきたんだから。

娘  おしゃべりはかあさん似、オッチョコチョイはとおさん似。いいとこばかり頂きまして有難う御座いまし

た 。

母  (桐の木を見て)・・・とおさん・・・お前の大きくなった姿を見たらどんなに喜ぶだろう。

娘  とおさん、喜んでくれるかしら。

母  涙脆い人だったもの。私との結婚式の間中泣いていた。

娘  嬉し涙か、悲し涙か解りゃぁしない。

母  お前が生まれたとき・・・あの桐の苗を買って来てあそこに植えたんだょ。

娘  ・・・

母  枯らしてはいけないって毎日毎日、とおさんは水をやっていた。お前と競争するようにあの木も大   

きくなった。

娘  とおさん・・・

母  とおさんが生きていたら、あの木でお前の花嫁タンスを拵えただろうよ。そんな、優しいとおさんだっ

た。

娘  しんみりさせるようなことを言うな・・・

母  とおさんは言っていた。お前を抱いて、この娘が大きくなって嫁ぐ日には泣くだろうって・・・。   

でも、とおさんは・・・

娘  とおさんの肩に乗ってよく遊んだのを憶えている。倉敷川沿いの石畳の道を下駄の音を発ててかけ  

っこしたの忘れない。何時もとおさんわざっと負けてくれた。

母  七五三の時だってお前に晴れ着を着せるんだと言って、あんなに好きだったお酒を止めて・・・。とおさ

んにお前の花嫁姿を見せたいね。

娘  見て貰いたい・・・喜んで欲しい(泣いた)

母  お前は母さん似だからきっと綺麗だろうョ。

娘  とおさん似じゃなかったの。

母  女の子は男親に似た方がいいって言うけど、残念でした。

娘  ああ、忘れていた。

母  だろう、さっきから何度も言っているだろう。

娘  何だか解らないくせに・・・

母  とおさんの写真だろう。

娘  ええ、どうして・・・

母  お前の留守に、旅行の持ち物を見たんだょ。イロイロと下らない物が沢山入っていたけど、一番大  

切な物が抜けていた。

娘  入れてくるわ。

母  お前のバックに入れといたョ。

娘  かあさん!

母  全くどじなんだから・・・。この娘を貰う省三さんも後に苦労するョ。

娘  そんな私が好きなんですって。

母  最近の男は女を見る目が甘くなったね。

娘  その通りです・・・と言いたいけれど・・・。省三さん、どことなくとうさんに似ていると思わない。

母  そう言えば・・・。だけど、優しすぎるのが欠点だわね。

娘  優しい人が好きなの。

母  男のくせに女のようだしね。

娘  女の様な人が好みなのョ。

母  顔は鬼瓦のようだし・・・

娘  かあさん、もういい加減にしてョ。私の選んだ人はまるで近鉄の野茂投手のようだと友達から言わ   

れるんだから・・・

母  隣の猫も野茂と言うのだけれどもね。

娘  もう、かあさんたら。

母  男は顔じゃあないよ。

娘  省三さんはそれじゃ顔が潰れているというの。

母  馬鹿だね・・・。例えだョ例え。男に必要なのは心意気だョ。私しゃお前がひっぱって来た男がどんな男

かとことん見たョ。心意気があったね。お母さん必ず幸福にしますからお嬢さんを下さい。と言って頭を

下げた。どこが気にいったんだいと聞くと、お母さんの生き方に感服しましたなんて、私を尊敬していて

。どうしてだいと聞くと,この倉敷の伝統名産の倉敷織りに命を捧げているその姿に射たれましたなん

て。じゃあ私に惚れたのかいと聞けば、そのお母さんに育てられたお嬢さんに惹かれましたなんて、考

えが確りしていたョ。

娘  かあさん!

母  変な、身のほど知らずに大きな車を乗り回しているような奴だったら、箒でぶん殴ってやろうかと思って

いたのさ。そんな半端や男に手塩に懸けて育てた娘を遣れるかいと思ってね。・・・だけど、お前はか

あさんに似ていい男をめっけてきョ

娘  有難う・・・。でも、私がかあさんに似てないって言ったんじゃなかった?

母  挙げ足を取るものじゃないョ。・・・手放すのが惜しい娘だけれど何時までも腰を落ち付けられたんじゃ

かなわないから、遣ることに決めたんだョ。

娘  かあさん・・・。

母  喜ぶのは早いょ。出来の悪い娘ほど可愛いし、もっと手元に置いて、世間様に後指を差されぬようにと

思ったけれど、人生にはチャンスとか潮時と言うものがあって仕方がないわね。

娘  かあさんの糸で切れた指先は一生忘れない。

母  人生楽しい事ばかりじぁないョ。泣いて帰って来たって知らないからね。

娘  誰が、かあさんの所になんか帰るものですか。

母  一度嫁いだ娘は一歩もこの家の敷居は跨がせないからね。その事だけは覚悟をしときなョ。

娘  言われなくったって・・・。

母  かあさんは一人で生きて行くよ。心配せずに幸福におなり。かあさんのことを少しでも考える暇間があ

ったら、省三さんの事を考えるんだね。心が離れていては不安なものだょ。心が通いあい通じあうには

十年はかかるからね。・・・かあさんにはとおさんが何時も側にいてくれるから淋しくなんかないからね

・ ・ ・。

娘  かあさん・・・。かあさんとこうして庭を見るのって何年ぶりかしら・・・。

母  さあ、忘れたね。・・・もう十年も前だろうかね。とおさんの事を忍んでは桐の木を見っめては泣いたも

のだったから・・・。ほら、桐の木が泣いたョ。

娘  ええ?

母  そうれ、ハラハラと落葉が・・・。きっととおさんの嬉し涙だョ。

娘  桐の木・・・とおさん・・・



     娘、庭に下りて桐の木を見上げ、両手をついて、



母  とおさんも喜んでいるだろうょ。お前と一緒に可愛がったお前の記念樹があんなに大きくなって・・・

娘  とおさん、省三さんてとても良い人なのょ。優しすぎて、女のようで、鬼瓦の様だけど、心意気があるっ

てかあさんが言ってくれたの。今、この町に残る伝統的な焼き物を作っているの。どろんこになって頑

張っているわ。そんな一途な省三さんが好きなの。とおさんが生きていたら、きっと喜んでくれる人だわ

ョ。とおさん、私はその人のもとへ明日嫁ぎます。どうか見守ってくださいね。

    

 母、そーと涙を手で拭う。



母  お前も人の親になったら、記念樹を植えておやり。とおさんの心を受け継いでおくれ。

娘  ええ、そうするわ。きっと幸福になって見せるわ。

母  そうさね、誰が不幸になるために嫁ぐもんか、幸福を二人して探すために一緒になるんじゃないか。

娘  ・・・(考え、泣いている)

母  涙は門出に不吉だョ。

娘  嬉し涙なら・・・

母  お前の涙はそうじゃない。この家に心引かれて落とす涙は・・・

娘  かあさん!



     娘は母の胸に。



母  馬鹿だね。何時ものお前らしくないョ。母さんは湿っぽいのは嫌いだからね。

娘  かあさん、私の記念樹、見にきていいでしょう。

母  外で見なよ・・・そうでないと・・・

娘  この家で過ごした二十年間・・・その思い出は・・・

母  今更なにょ。すっかりお前の思い出はもっといておくれ。この家に残して欲しくないんだから、何度も言

っているだろう。

娘  そんなに言わなくったっていいでしョ・・・

母  湿っぽい娘だね。何もかもほっぱらかして出てお行き。そして、二人で新しい思い出を作るんだョ   

。それがお前の人生なんだから。

娘  ・・・そんなに言うのなら、もう帰ってやらないから。

母  結構だね。その方が清々すると言もんだわョ。

娘  母さんが一人ぽっちになっても知らないから。

母  その方がノビノビ出来るわョ。この狭い家に女が二人いて、欠伸の一つも出来なかったんだからね。

娘  それはそれは悪う御座いました。

母  ・・・とうさんと二人っきりでこの家で暮らょ

娘  かあさん!本当にそれでいいの?

母  いいんだョ。何時までたっても乳離れしない娘だね。

娘  何時までたっても娘離れしない母なんだから・・・

母  子供は親の羽根の下から飛び発つことぐらい知っているから。そうでないと幸福にはなれないョ。   

    かあさんだってそうしてきたんだから・・・

娘  本当にそう考えているの。



     娘は母の膝に手を掛けて、



母  嫌な娘だね・・・(母は娘の手を払い除けた)

娘  かあさん!



         間



母  幸福と言うものは待っていたつて来ないものだョ。努力して漸く手の届く所にくるものだョ。それを掴み

   損なう人も多いいけれど、その人達は何が自分達にとって幸福かが分かっていないからだョ。自分達に

   似合う幸福がなにかを探すんだね。他人がどうであれそんなもの関係ないんだョ、背丈の幸福でいいん

   だから。

   私には、多くの人が幸福を演じているように見えるんだョ。人を笑わすピエロの心はどんなものかね。

   さぁ、顔を洗っておいで、化粧が落ちて見られた顔じゃないョ。省三さんが来るんだろう。

娘  ええ。(頷いた)

母  そんな顔を見せちゃ明日という日はなくなるからね。

娘  はい。

母  いやに素直だね。

娘  かあさん・・・

母  分かっているョ。お前の悩む心は有難いけれどかあさん大丈夫だって。女の細腕でお前を育てて来た

   んじゃないか。・・・お前に人並み以上の生活も、母としての愛情も与えることが出来なかったけれど・・・

   。力が足りなくて御免ョ。

   かあさん、お前には感謝しているんだョ。お前のお陰で苦労はしていてもちっとも辛いとは思わなかった

   ョ。私の織った一枚の布にもお前との思い出を織り込むことが出来たし、かあさんの人生にシアワセと

   いう色を落としていい絵を描いてくれたんだから。今度はかあさんがあげたお前の人生に楽しい色で絵

   を描きなョ。二人して・・・。

   なんだかんだって、今じゃ、こうして苦労はしたけれど笑い話として喋れるって事だわョ。

   ・・・心配はいらないって・・・

娘  かあさん、有難う。

母  その言葉は立派な母になって言っとくれ。母親に ならなくては女は一人前とは言えない。半人前の 

    娘に有難うなんて言葉しゃべられると、かあさん背中に虫酸が走るわョ。

娘  きっと、楽しかったと思えるようになるわよね。                                 

母  そうだょ。笑って今日のことを話し合えるときが来るって・・・。孫を囲んで・・・。本当に心配はいらないョ

娘  そうよね。・・・顔を直してくるわ。



     娘は奥に退場する。



母  とうさん!百恵はあんなにいい娘に育ちました。私の力が足りず、充分な支度もしてやれなかったけれ

   ど・・・。でも、今の百恵は幸福ですョ。省三さんは昔のあなたのような人なんですもの。好いて好かれた

   仲、今までの不幸福を一挙に幸せに持っていったんですもの。

   あなたが生きていたら、心にもない事を言って、百恵の幸福の為に追い出したことでしょうね。・・・とおさ

   んあれで良かったんですよね。

   あの娘がいなくなっても、あなたがいるし、あなたが植えたあの娘の記念樹がありますもの。そして、こ

   のアルバムが・・・。(とアルバムを胸に抱く)

   あなたは、あの娘の幸福を空の上から見守り、祈ってやってくださいね。

     

     母は一頻りアルバムを捲っていたが、

     BGM「秋桜」NO1が流れる。

     その間、母は娘との思い出の中に浸り、家の中を歩き回っている。

     義弟が登場する。

     義姉の様子を見ていたが、



義弟  義姉さん!

母  繁ちゃん・・・

義弟  今日までよく頑張ってくれましたね。僕が何も出来ないから・・・・

母  言っちゃ駄目ですョ。それ以上は・・・

義弟  だけど・・・。この二十年間、本当の母親以上の愛情を・・・

母  馬鹿、バカ、馬鹿馬鹿、なんで今日くるんだい。お腹を痛めなかったけれど、それ以上の・・・。あの人

    が突然蒸発して途方に暮れているときにあの娘がいてくれたから・・・生きてこられたんじゃないか。あ

    の娘を人並み以上に育てる事が、私を捨てたあの人への面当てだったんだョ。そして、何が何でも見

    返してやるいう心が、今の倉敷織りの私を作ったんだョ。だから・・・                    

義弟  義姉さんは強いお人だ。

母  何があんたなんかに解るものかね。強かったら何もかもほっぽらかして、どこぞに行って暮らしていた

    だろうョ。



     「かあさん」と呼ぶ声がする。



母  早く帰っておくれな。私は今母親の役を演じているんだから。心の底から喜んでいるんだから。お腹を

    痛めた本当の娘だったら、こんなに幸せな役を演じられなかったかもしれないんだから。

義弟  それでいいんですか?

母  あの娘と、素晴らしいとおさんを作ってきたんだから、あの娘のことを心底可愛がり、あの記念樹も植

    え、子供の成長だけを楽しみにしていたとおさんを作り、二人して、いいえ、あの娘に教えてきたんだ

    から・・・。ほっといておくれな。いいんですよこのままで・・・

義弟  そうですか。それで、義姉さんはこれからどのようになさるんですか?

母  心配しなくったっていいわョ、私のことなんて。                                  

義弟  一人ぽっちになって・・・

母  考えることがあって・・・。ユートピァハウスに行こうかと思っているんだョ。

義弟  そんな歳でもないでしょう。

母  軽い痴呆症患者にリハビリーとして倉敷織りを教えてくれないかって言って来ているんだョ。

義弟  行くのですか?

母  貼りつめていた糸が切れ・・・。目的がなくなってしまったから・・・

義弟  そうですか・・・

母  あの娘が来たら・・・早く出ていっとくれ。

義弟  では、明日。

母  あの娘のこと、そしてあの人のことはどんなことがあっても言っちゃ駄目ですョ。もう、人間を憎んだり、

    恨んだりさせないで。信じることの出来る心を奪わないで・・・。あの人だけで沢山なんだから・・・



     義弟は静に退場する。

     間 考え込んでいる母。

     娘が登場する。



娘  かあさん、本当は淋しいんでしょう。

母  何度言ったら気が済むのかね。

娘  (改まって)お母さん・・・(母の前に座る)

母  なんだいなんだい、嫌だョ・・・

娘  かあさん・・・(母を見つめる)

母  よしとくれ、月並みな言葉はいらないョ。

娘  かあさん、聞いて・・・。かあさん、本当に長い間お世話になりました。

母  馬鹿、ばか、よしとくれったら・・・。(手で耳を塞ぎ、首を振る)

娘  かあさん、今までの我侭をお許しください。大きくしてくださったご恩は一生忘れません。

母  お前を大きくしたことは、親としての当たり前のことだョ・・・。それじゃまるで他人じゃないか。親娘なん

    だから・・・

娘  かあさんご恩を返さずに出ていきますことお許しください。色々と・・・有難う御座いました。



     娘は深々と頭を下げた。



母  なんだね、今ここで言わなくったってい言ってもんじゃないの。

娘  おかあさん!



     娘は母の胸に、母は娘を抱いて。



母  いいのよ。そんなに恩に感じなくったって。娘は親を捨てるものなんだョ。そうして、母親になっていくん

    じゃないか、それでいいんだョ。

娘  幾らかあさんがこの家の敷居を跨がせないって言っても、私は何度でも帰って来てやる。

母  おまえ・・・

娘  有難う、かあさん・・・

母  元気でね。

娘  とおさんに逢いに来ます。

母  ・・・(娘に背を向ける)

娘  忘れっぽい、オッチョコチョイの私だけれど、かあさんの娘、その事忘れません。

母  お前ったら・・・

娘  もう少し、かあさんの娘でいさせたて下さいね。                                 

母  (振り返って)お前はどこにいようとかあさんの娘だョ。・・・淋しい時、悲しい時、辛い時、何時でも帰っ

    ておいで。

娘  かあさん・・・

母  湿っぽい娘だね。かあさん、これから二花も三花も咲かすんだから・・・



     明かりが落ち、「秋桜」のBGMIN



                      幕

   一幕

     母と娘(秋桜)より

    これは決定稿ではありません。練習を通して幾分変わることがあるでしょう。

    特に大きく変わることはありませんが、義弟と母の部分の手直しをするかも知れません。



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